第94回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅲ)


10.心肺停止蘇生後の外傷性環椎後頭骨脱臼の一例
 
佐賀大学医学部 整形外科
 
井上 孝之(いのうえ たかゆき)、森本 忠嗣、吉原 智仁、塚本 正紹 

【目的】外傷性環椎後頭骨脱臼は稀な脊椎外傷で、多くは致死的であり、生存例であっても重度麻痺が残存することが多い。心肺停止蘇生後に重度麻痺を呈した外傷性環椎後頭骨脱臼例に対して手術を行い、歩行能を獲得した1例を経験したので文献的考察を交えて報告する。
【症例】43 歳、男性。バイクを運転中に乗用車と衝突して受傷した。心肺停止の状態で、受傷後 2 分で bystander CPR が施行され、15 分後に自己心拍 再 開 し、 当 院 搬 送 と な っ た。 意 識 レ ベ ルE4VTM1、瞳孔不同なく、対光反射迅速で、外傷性クモ膜下出血、外傷性環椎後頭骨脱臼、左多発肋骨骨折、左緊張性気胸、両肺挫傷、左大腿骨顆部骨折、左肩甲骨骨折、左橈尺骨骨幹部骨折と診断した。意識レベルは徐々に改善し、瞬目で意思疎通を行い、舌下神経障害による構音障害を認め、改良 FRANKEL 分類 C 1の四肢麻痺(MMT 右 3/左 1)であった。全身状態が落ち着いた受傷 14日目に後頭頚椎固定術、上下肢骨折観血整復固定術を行った。術後、四肢麻痺は徐々に改善し(MMT右 5/ 左 2- 3)、術後 44 日でリハビリ目的で車椅子で近医に転院した。術後 1.5 年時点で、四肢の MMT 右5/ 左 4 - 5 で、T 杖+手すりで自力歩行可能である。
11.骨傷を伴う頚椎損傷に対する後方固定術の治療成績 ―O-arm navigation の有用性―
 
徳島県鳴門病院 整形外科
 
髙松 信敏(たかまつ のぶとし)、千川 隆志、横尾 由紀、平野 哲也、和田 一馬、眞鍋 裕昭、日比野 直仁、邉見 達彦
 
【目的】骨傷を伴う頚椎損傷に対する当科での手術経験を O-arm navigation 導入の前後で比較検討したので報告する。
【対象・方法】対象は 2018年 4月から 2021年 5月に骨傷を伴う頚椎損傷に対して当科で後方固定術を施行した 8例である。2020年 10月に O-arm navigationを導入しており、導入前の 3例は C-arm(C群)、導入後の 5例は O-arm(O群)を使用した。Pediclescrew(PS)数、Screw総数、固定椎体数、Screw逸脱率、手術時間を 2群の平均で比較した。
【結果】統計学的有意差を認めなかったが、O 群は C群より PS 数(O 群:C 群 6.4 本:2.7 本)が多く、Screw 総数(O 群:C 群 7.8 本:9.7 本)、固定椎体 数(O 群:C 群 4.2 椎 体:5 椎 体 )、Screw 逸脱率(O 群:C 群 2.5%:6.8%)は少なかった。O 群は C 群より手術時間が 47 分長かった。術後神経学的所見(改良 Frankel 分類、ASIA)は全例で 1 段階以上改善を認めた。
【考察】O-arm navigation は術中画像撮影に時間と回数を要するが、より安全に PS を挿入することが可能である。積極的に PS を選択することで、強固な内固定がより少ない椎体間で得ることが期待できる。
12.高度な転位を残し後方固定術を行ったびまん性特発性骨増殖症を伴う椎体骨折の 1
 
香川県立中央病院 整形外科
 
廣瀬 友彦(ひろせ ともひこ)、生熊 久敬
 
 びまん性特発性骨増殖症(DISH)を伴う椎体骨折は腹臥位で後方固定が行われることが多いが、十分な整復位が得られず、やむなく大きな転位を残したまま固定せざる得ないことがある。一般的に骨癒合は得られやすいが、高齢者や障害が高度な症例では十分な経過を追えていないものも多い。今回、我々は高度な転位を残したまま後方固定術を施行した 1 例を報告する。症例は 44 歳女性。交通外傷後にショックと意識障害のため当院に救急搬送された。DISH を伴った進展型の損傷で、転位した第 1 腰椎の three column 骨折に加え骨盤骨折、左大腿骨骨折、右血胸などを認め、後 に 左 脳 梗 塞 も 判 明 し た。 受 傷 後 11 日 目 にT10-L3 までの経皮的椎弓根スクリューによる後方固定術を施行した。枕などを用いて整復を試みたが困難であった。ADL の回復の見込みは低く、看護、介護を容易にすることが目的であったため整復不良を許容した。その後、意識は回復したがADL は全介助で車椅子に移乗できる程度であった。術後3ヶ月で後方は骨癒合が得られていたが、最終調査時の術後 17 ヶ月でも椎体の癒合は得られなかった。
13.強直性脊椎疾患を伴う胸腰椎骨折の後方固定術の際に術中体位が骨折部に及ぼす影響 側臥位 VS 腹臥位 –
 
香川県立中央病院 整形外科
 
生熊 久敬(いくま ひさのり)、廣瀬 友彦
 
【はじめに】本研究の目的は、強直性脊椎疾患(AS およびDISH)を伴う胸腰椎骨折の後方固定において、術中体位を側臥位にすることで、意図しない骨折部の開大を抑止する事ができるか否かを検討すること。
【対象と方法】2008 年以降に強直性脊椎疾患に生じた胸腰椎骨折に対して側臥位もしくは腹臥位で後方固定を行なった 37 例を対象とした。内訳は、側臥位群(L群)15 例(AS 1 例 , DISH 14 例)、腹臥位群(P 群)22 例 (AS 1 例 , DISH 21 例 ) である。L 群が男性 11 例、 女 性 4 例、 平 均 81.1 ± 10.9 歳、BMD 24.5 ± 4.1 kg/cm2、P 群が男性 15 例、女性 7 例、 平 均 79.8 ± 8.9 歳、BMD 22.2 ± 3.2kg/cm2 であった。この 2 群におけて、骨折椎体の術前後の骨折部面積比(術前後の矢状面 CT 画像における椎体内の Fracture void の比)、骨折椎体前壁長比(術後の矢状面 CT 画像における骨折椎体に隣接する椎体の前壁長に対する骨折椎体の前壁長の比)のについて比較検討した。それぞれの項目は、100%以下の値をとった場合に骨折椎体の開大が抑えられたことを示している。
【結果】骨折部面積比について、L 群は術後 87.4 ±12.8% へ減少し、P 群は術後 117.5 ± 37.3% へ増大していた。椎体前壁長比について、L 群は107.5 ± 12.3% と大きく変わらず、P 群は 116.6± 18.9% へ増大していた。骨折部面積比および椎体前壁長比、それぞの項目が 100%以下となり骨折部の開大を抑えることができたと判断できた症例を有効症例とした場合、骨折部面積比および椎体前壁長比の両群における有効症例の割合
は、L 群 で は 86.6% お よ び 60.0%、P 群 で は36.3% および 31.8% であり、L 群で有意に有効症例が多かった(p=0.002, 0.046)。
【考察】強直性脊椎疾患を伴う胸腰椎骨折の術中体位で、側臥位は腹臥位に比較して骨折部の開大を抑制できることが判明した。
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