第96回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅴ)


32.当院における高齢者頚椎・頚髄損傷の検討
 
大分大学医学部整形外科学講座
 
阿部 徹太郎(あべ てつたろう)、宮崎 正志、金崎 彰三、迫 晃教、津村 弘

【緒言】高齢者の頚椎頚髄損傷は予後不良、合併症率が高いとされ、急性期管理が重要である。当院は高度救命救急センターを有しており、大分県内の頚椎頚髄損傷患者が多く搬送されている。当院における頚椎頚髄損傷患者の特徴について報告する。
【対象】2012年10月から2022年7月の間に、頚椎頚髄損傷のため当院高度救命救急センターに入院した185症例について調査を行った。
【結果】平均年齢は67.7±16.8歳、男性136例、女性49例であり、65歳以上の高齢者は126例(68.1%)であった。高齢者の損傷高位としては、上位頚椎損傷39例(31.0%)、中下位頚椎損傷87例(69.0%)であり、非骨傷性頚髄損傷は49例(38.9%)であった。高齢者のうち31例(24.6%)で脱臼を伴い、C5/6(8 例)、C6/7(9例)高位が16例と約半数を占めていた。
【考察】高齢者の頚椎頚髄損傷は増加傾向にあり、予後不良で、合併症も多いという特性を理解した上で、手術を含め適切な治療方法を選択する必要がある。
33.後期高齢者頸椎頚髄損傷の治療成績

鳥取大学 整形外科
 
三原 徳満(みはら とくみつ)、谷島 伸二、武田 知加子、吉田 匡希、藤原 聖史、永島 英樹
 
【はじめに】高齢化社会に伴い後期高齢者の頸椎頚髄損傷は増加している。
【目的】後期高齢者の頸椎頚髄損傷の治療成績を比較検討すること。
【対象・方法】2010年から2019年までに治療を行った、頚髄頚髄損傷患者169例を75歳以上:O群59例、75歳未満:Y群110例に分けて比較検討した。調査項目は年齢、性別、観察期間、受傷機序、受傷時AIS、AIS改善度、非骨傷性の有無、手術の有無とした。
【結果】性別、観察期間、手術の割合は有意差を認めなかった。受傷機序はO群で転倒の割合が有意に高かった。非骨傷性の割合はO群で高い傾向であったが、有意差は認めなかった。受傷時AISは有意差を認めなかったが、AIS改善度は、2段階以上改善の割合がO群で有意に低かった。
【まとめ】後期高齢者の頚髄損傷の特徴は受傷機序は転倒の割合が高い、非骨傷性の割合が高い、麻痺が劇的に改善する症例が少ないといった結果であった。
34.後期高齢者の頚椎頚髄損傷に対するLong lateral mass screwの有用性

川崎医科大学 整形外科1)、春陽会病院 整形外科2)、群馬脊椎脊髄病センター3

中西一夫(なかにし かずお)1)、渡辺 聖也2)、内野 和也1)、射場 英明1)、杉本 佳久1)、清水 敬親3
 
Lateral Mass Screw(LMS)より長いスクリューを挿入するための新たなトラジェクトリー Long Lateral Mass Screw(LLMS)の後期高齢者の頚椎頚髄損傷に対する有用性について検討した。2012年から2022年の10年間で手術を行った75歳以上の頚椎頚髄損傷の患者38例を対象とした。 男性25例、女性13例で、平均年齢は80歳である。評価項目は手術時間、出血量、screw長、screwの逸脱率、合併症である。
手術時間は168分、 出血量は193ml. ScrewはPedicle Screw(PS)74本、LMS 74本、LLMS 77本で、平均screw長は、PS 24mm、LMS 16mm、LLMS 21mmであった。LLMSはLMSに比して優位に長かった。Grade2以上の逸脱率はPS 7%、LMS 0%、LLMS 5%で、合併症は認めなかった。LLMSは長いscrewの挿入が可能で、screw逸脱率も少なく、 後期高齢者の頚椎頚髄損傷の患者においても安全に使用できると考える。
35.高齢者頚髄損傷の自宅退院に影響を与える因子の検討
 
総合せき損センター
 
佐々木 颯太(ささき そうた)、益田 宗彰、河野 修、前田 健
 
【目的】高齢頚髄損傷患者の退院先及び自宅退院に影響を与える因子の検討。
【方法】過去の診療記録及びデータベースを参照し、65歳以上の急性期頚髄損傷患者262例を対象とした。年齢、性別、在院日数、手術・骨傷の有無、入退院時AIS・AMS・SCIM、同居人、退院先について情報を収集した。自宅退院群と自宅外退院群との2群間で、上記について単変量解析を行った。また、年齢・性別・入院時の完全麻痺の割合・入院時AMS・SCIMを説明変数とし、各因子の影響度について退院先を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
【結果】全患者における自宅退院率は41.1%であった。単変量解析では年齢、在院日数、同居人、入退院時完全麻痺の割合、入退院時のAMS・SCIMに有意差を認めた。また、多重ロジスにティック回帰分析では受傷時年齢、入院時完全麻痺の割合、入院時AMSが自宅退院の独立した因子であった。
【結論】高齢頸髄損傷患者の半数以上が自宅外への退院を余儀なくされている。年齢、入院時完全麻痺の割合、入院時のAMS値は自宅退院の独立因子であることがわかった。
36.当院における頚椎頚髄損傷治療の変遷
 
川崎医科大学附属病院 整形外科
 
難波 俊介(なんば しゅんすけ)、中西 一夫、杉本 佳久、射場 英明、内野 和也、渡辺 聖也
 
2011年~2021年までに当院で手術を行った頚椎頚髄損傷患者119例について調査した。頚椎外傷手術例の平均年齢は60~70歳前後で推移しており、過去10年間で大きな変化は認めなかった。65歳以上の高齢者の占める割合は、ばらつきがあるものの50~83%であった。11年間で119例の頚椎外傷手術おこなっており、1ヵ月平均では、0.9例の手術を行っていた。月1例の手術を平均的に忙しい月と定義すると、11年間のうち平均的に忙しい月の占める割合は31%であった。平時の3~5倍の手術症例が集中した期間が11年間のうちで4ヵ月あった。脊椎外傷を扱う急性期病院においては、平時の数倍忙しい月が数ヶ月続くことを想定して、チーム医療を行える体制と整えておくことが望ましいと考えられた。
37.急性期外傷性頚髄損傷における嚥下障害の発生機序 ~高齢者頚髄損傷と嚥下障害~
 
独立行政法人労働者健康安全機構 総合せき損センター 
 
林 哲生(はやし てつお)、藤原 勇一、益田 宗彰、河野 修、坂井 宏旭、森下 雄一郎、久保田 健介、横田 和也、前田 健
 
【はじめに】頚髄損傷における肺炎は頻度が高くかつ致命的な合併症であるが、特異的な治療方針ではっきりしたものは無い。一方で頚髄損傷後の嚥下障害の報告は近年散見されるが、そのメカニズムは未だ十分に分かっていない。本研究の目的は、急性期頚髄損傷における嚥下障害の重症度に影響する因子を検討し、嚥下障害発生のメカニズムを分析することである。
【方法】受傷後2週以内に入院した症例を前向きに調査した。受傷後2週において嚥下障害は臨床重症度分類を評価し、年齢・気管切開の有無・骨棘による後咽頭圧迫の有無・手術の有無・ASIA motor score・MRIによる受傷高位・CTにて後咽頭腔幅と気管後腔幅を評価した。
【結果】基準に適応した症例は136例であった。多変量解析において嚥下障害に有意に影響する因子は、年齢・motor score・気管切開・後咽頭腔幅であった(p<0.05)。
【結論】急性期の嚥下障害に有意に影響する因子としては、高齢・重篤な麻痺・気管切開・後咽頭の腫脹であった。すなわち高齢者は嚥下障害を引き起こしやすいことが示唆された。
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